正しい、人間らしいいつくしみ合いに祝福あれ!」
彼女は希望に打たれて、泣き出さずにいられなかった。そして、
「ああやっと来た! やっと自分のほんとの生活が見つかった! おてんとうさま。私の神様。
私は嬉しい。ほんとに、ほんとに嬉しい」
と、躍り上るような字で書きつけた鉛筆を、投げ出した彼女は、せっかく書いた字が皆めちゃめちゃになってしまうほど、涙をこぼした。
悪霊のような煩悶や、懊悩《おうのう》のうちに埋没していた自分のほんとの生活、絶えず求め、絶えず憧れていた生活の正路が、今、この今ようやく自分に向って彼の美くしい、立派な姿を現わしたように思われていたのである。
彼女は、自分の願望を成就させるに熱中した。
寛容な、謙譲な愛によって仲よく、睦しく助け合って行く自分達を想い、心が安らかに幸福な一群が、楽しく元気よくほんとの「自分達の働き」にいそしむ様子を描きながら、自分の許されている範囲において、真剣に彼女は、出来るだけのことをして行ったのである。
これ以外には決してないと思われる仕事に対して、たとい量は少く、範囲は狭くあろうとも、彼女の真面目さは絶大であった。徹頭徹尾一生懸
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