緒にどうにかして行きましょう!」
と呼びかけずにはいられなかった。
そして、あのとき、もし自分が大人だったら、そうっと彼が泣く訳を聞けるだろうのにと思った心持は、そのときよりはっきりとした解答、彼の泣いた訳も、結果も分っているという心持を伴って、一層の同情を喚び起したのである。
「彼も人間である。私も人間である。私が生きるために、彼の命を軽ずるのは正しいことか」
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狆《ちん》に縮緬の着物を着せて、お附きの人間をつけて置く人が、彼の門前で死に瀕する行倒れを放って置くのは正しいことか。
そういう人に媚びて、ほんとの同情をごまかしたり、知らない振りをするのは正しいことか。
優しい鼓舞と助力は待ち望まれている。彼等の歎息に耳をかせ。
[#ここで字下げ終わり]
彼女は、書きながら、心がブーンブーンと鳴り響くような心持がした。
「弱い者、気の毒なものが虐げられるのが悪いのなら、そうでないように出来るだけやってみることに、何の躊躇がいろう。
よりよく、より正しい方へとすべては試みられなければならないのではないか、
どんな辛い目にあっても、自分は彼等のために尽す。ほんとの
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