るために、自分は独りであらゆる破調に堪えて行かなければならないのか……
[#ここで字下げ終わり]
 彼女は実に悠久な悲哀に心を打たれた。
 けれども、その悲哀は自分の心から勇気を抜き去ったり、疲れを覚えさせたりするような悲しみではなく、かえって、心に底力を与え、雄々しさを添えるものであることを彼女は感じた。
 そして、無限に起って来るべき不調和と、衝突とに向って、それが必然なものであり、止を得ないものであるなら、どこまでも当って、自分の路を開いて行こうとする決心が、しっかりと揺がない根を彼女の心に下したのであった。
 どんなことが来ようと、自分は決して顔をそむけまいという意志は強かった。
 先達《せんだつ》のない山路を、どうにかして、一歩でも昇ろうとする努力は確かに勇ましかった。
 けれども、その不断の力の緊張は、やがて驚くべき苦痛をもって現われて来たのである。
 両手を左右に拡げることを、毎日の間に幾度かしている。けれども、それを拡げたままで五分保っていなければならない苦しさは、ちょっと考えると雑作のない単純な運動とも思われない量をもっている。
 上げたときと同じにしておこうと思って
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