ているのに心附きました。自分のことばかり云っていて、何だか少し極りの悪いような心持が致します。
けれども、云いたいだけを云い、書きたいだけを書いてあげられ、見て戴ける方は、あなた以外にない私に、どうぞ思うままを云わせて下さいまし。
そして、この燃焼が無駄に消えないように、お祈り下さいませ。お目にかかりたいと思っております。
手紙はここで終っている。
かような心の状態にあった彼女は、自分の周囲の総体的の運動とは、まるで違った方向に、彼女の路を踏もうとしていた。
それ故、その総体的の方向を変化させる力などは、もちろん持たなかった彼女は、当然来るべき孤独のうちに、否《いや》でも応《おう》でも自らを見出さなければならなかったのである。
五
人には自己なる領地より大なる領地あることなし。
而して汝孤ならば汝は全く自らのものたるべし。
レオナルド・ダ・ヴィンチ。
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それは真理だろう。
けれども、これほど貧しい頭を持ち、これほど磨かれない魂の自覚に苦しめられながら、それを満たすために、輝やかせ
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