々寄路をしたり、云わないようにして下さいとか、私はこう思いますと弁解してはいられません。
思いたいように人は思っていて、ようございます。
いろいろに思う人の言葉の中に、私のほんとの価値があるのでもなく、心をたのんで置くのでありません。
私は私なのです。それ故私の一生を駄目にするのも、価値をあらせるのも、皆私次第なのだと思うことは、間違っていましょうか。
自分が尊いと思うものの前には、私はいつでも膝を折り、礼拝する謙譲さをもっています。より偉大なもの、よりよいもの、美くしいものに、私は殆ど貪婪《どんらん》なような渇仰をもっています。
けれども、不正だと思うものの前には、私はどんなことがあっても頭を垂れることはありますまい。臆病になることもありますまい。
ただ、一度ほかない私の一生を、不正なものに穢されるのは、何といってもあまりもったいないことではないでしょうか、私は、よくなれるかもしれないものを、悪いことの中へ投げこんでしまう勇気はありません。私は、ただよりよくありたいためにばかり生きています。考えています。そして苦しんでいるのです。
ここまで来て、私は、何だかあまり興奮し
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