ました。世の中によくある通り、或る標線からちょいとでも頭を出すものがあると、その価値を考える暇もなくびっくりし、まごついて、大急ぎで擲《たた》きつけるような人々を憚《はばか》って、擲きつけられるのをこわがって、私の道を曲げ、怯《ひる》んではいられません。
或る程度まで達するうちには、この無智な、狭小な魂の所有者である自分は、たくさんの苦痛と涙と、悔恨とに遭遇しなければならないのは、明かに予知されます。茫漠たる原野に、一粒ずつの金剛砂を求めて行くような労力と、収穫の著しい差異も、覚悟しています。けれども、ほんとにけれども、たといそれがどんなにささやかなものであり、目立たぬものであっても、
真理は真理なりという効益あるに非ずや
という、尊い言葉が私を失望させは致しません。
真理は真理なりという効益あるに非ずや
そうです。ほんとにそうです。私は、その何ものにも、彼の価値を減少させられることのない真理を、一つでも多く見出し得るように、努力し、緊張して行かなければならないのではありますまいか。
私はもう、あの人がどう云ったとか、この人がこんなことを云ったとかいう些細なことに、一
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