んは、睡蓮の花を静かに左や右に揺り、いっぱいに咲きこぼれている花々の蕋《ずい》からは、一人ずつの類もなく可愛らしい花の精が舞いながら現われて来ました。
 目に見えない※[#「毬」の「求」の代わりに「戍」、297−4]毛《わたげ》を金色に輝やかせながら、喉を張って歌う乙女の歌について、森じゅうの木々の葉と草どもが、小波のように繰返しをつけて行く。花は舞う。草木は歌う。勢づいた流れの水は、旋律につれて躍《おど》り上り跳《は》ね上って、絶間ない霧で、天と地との間を七色に包む。
 ありとあらゆるものが、魔法のような美くしいうちに、乙女の声は体の顫《ふる》える力と魅力をもって澄み上って行ったのです。
 ユーラスは、半分夢中のようになりました。そして、いきなりその踊りの真中を目がけて踏み出そうとすると、今までは、なごやかに低唱していた樫の木精が、一どきに
 ギワーツク、ギワーツク、カットンロー、カットンローローワラーラー……と歌い出し、彼方の霧の底から、微かな
 ハッハッハッ! ホッホッホッ! という声が高まって来ると一緒に、森じゅうの木という木の葉が、波のように白い葉裏を翻しながら、彼に向って泡
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