ここを行ってはいけないのかしらんと思って、別に不思議を感じなかった彼女も、それが行く先々、どの方向にもつきまわっているのに気がついたときには、ハッと思わずにはいられなかった。
 一体、なぜこのように自分の進路は、いつもいつも阻止されなければならないのだろう。
 彼女は畏怖と失望に混乱した心持で、その断《き》れ目もなく続いている牆壁を観察し始めたのである。
 そして、これは、お前達を不仕合わせな目に合わせないため、よく育ててやりたいために親切に作られたものであるという説明を、或るときは優しい愛撫とともに、或るときは激しい威嚇を伴って繰返し繰返しとかれたにも拘らず、彼女はその言葉、その態度、その理由のうちに、服従することの出来ない多くの自家撞着を発見した。
 どう考えても、臆病な妥協と、利害関係のある周囲への阿諛《あゆ》――彼女自身の言葉で云えば、あるべからざるもろもろの曖昧さに根を置いていることを感じずにはいられなくなった。と同時に、そんなものに自分を遮られて、行くべきところへ行かないでしまうことは、どうして出来よう、あくまで進め、そこから自分の路は開ける。またきっと開いてみせるぞ! と
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