いう反抗が、猛然と胸のうちに湧いて来たのである。
失望に代る何か一種の激しい緊張に、彼女は振い立った。
進め! 勇ましく汝の道を行け。心が鬨《とき》の声をあげた。そして、彼女の道を遮り行く手を拒むあらゆるものに向って戦いが宣せられたのである。
これから、彼女にはまるで理由の分らなかった自分と周囲との不調和、内から湧こうとする力と、外から箍《たが》をかけて置こうとする力との、恐ろしい揉み合いの日が続いたのである。
個人的傾向と、一般的方則の衝突。誰でも感じなければならないこの不調和は、主観のみの世界に閉じこもって、客観的な妥当性をまるで具備しない魂の燃え上るがまま、美点も欠点も自分の傾向の赴くままに従っていた彼女の上において、特に著しかったのである。
けれども、生れたばかりの赤子が、どうして彼の赤子であることを自覚しよう。それと同様に、すべての内在的原因を自覚し得ない彼女は、ただ衝突する周囲の者を見、自分の延そうとする手を否応なしに折り曲げさせようとするもののみを感じたのである。
四
―月―日
「真面目であれと云われる。それだのにほんとの真面目さは圧《お》
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