間というものでもなく、意志の強いといわれるだけでもないことに気が附いたのである。
 偉い人の力を捕えて、掌の中で解体し、それをまた組立て、放してやるようなことは、決して出来ない。
 ただ、感じ得る者、いつも謙譲であり真面目であり、受け入れるだけの力のある者のみが感じ得るものであるのに、心附いたのである。
 かように、彼女が近くへよって、よく視ようとした偉い人々は、却って広さと遠さの無限のうちへ飛翔《ひしょう》してしまったけれども、まったく不思議なことには、何か偉大な魂を感じ得るものが彼女に遺されたのである。それが、感情の一部分なのか、理性の一面なのか、まるで解らなかったけれども、とにかく、彼女はその心持から、ほんとの人間の生活にとって、「あるべきこと」と、「あるべからざること」とが、或る程度まで判断されるようになった。
 そして、いつともなく相当な言葉数を知って来た彼女は、自分のこれからを「どうしたらいいだろう」とかつて書いた心細さからは、たとい極く僅かではあったが、救われた。
 一生懸命に努力して行き、正しいことから、より正しいことへと進んでさえ行けば、という希望が彼女の心のうちでだ
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