を見、神とともに語った聖者。
 または、悲壮な先駆者として、彼の生命を自然律のあらゆる必然のうちに投じて、天と地との一切のものを知り、そして愛し得た選まれた人。
 それ等の涙をこぼさずにはいられなかったほど崇高な、力強い、まったく何物にも動かされない人格の力を、燦然《さんぜん》と今日にまで輝やかせている人々は、彼等の未来に、どんな約束をも欲していなかったことが、先ず彼女を驚かせ、感歎させた。
 それは偉い人の中にでも、やっと歩けるようになったばかりのときから、私は何になる! と云って、その通りなった人もあろうけれども、彼女が、自分もこうあったらと思う種類の偉い人は、皆黙っていた。
 彼等は自分の行手に何の影像も持っていなかった。後の時代の者達に、大聖人であると思わせようとした人でも、人類の光栄になって見せるぞと云った人でもなかった。
 彼等は、その熄滅することのない勇気と、探究の努力とを、「今」というあらゆるときにおいて、徹底させて行ったばかりなのである。
 いつも謙譲に、その人々は美くしいものを、讃《ほ》め、尊ぶことを知っていたと同時に、讃めるにも、尊ぶにも「彼自身」をなくして出来る
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