持って駈けつけた彼女は、失望せずにはいられなかった。
耳を傾けてみると、もうびっくりするほど、あっちこっちで人格の力、人格の修養、完成という言葉が叫ばれている。ほんとに大きな、怒ったような声や、鋭い、刺すような声が、話すのではなくて叫んでいる。
けれども、なぜだか、彼女は自分の聞きたい言葉と声とは一つも見出せなかったのである。
あまり、荒々しい声なので、言葉のうちには始終宿っているはずのほんとの「人格の力」は恐《こ》わかったり、極りが悪かったりして、皆どこかへ逃げ出してしまっているようにも思われる。
彼女は、もう叫ばれている声に耳を貸そうとは思われなくなった。ただ読むばかり。ただ読むばかりが自分にほんとのことを教え、彼の声、彼の言葉で親切に、せきもせず、引き延しもせずに教えてくれることを知っている彼女は、自分の脳力の続くかぎり、手に触れるほどの書籍の中から、ほんとの偉い人の姿を見出そうとしたのである。
そこには、実にあまたの尊い人々の生活が、強制せぬ態度と麗わしい言葉とで語られていた。
いかほどの迫害を受けても、ただ、神の恩寵のみを感じて、想像も及ばない忍従と愛とのうちに神
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