のような心持がせずにはいられなかった。たくさん読み、たくさん考えているときの、あの頭が快く一杯になって、額の辺が堅く張って来る心持。心には何かが確かに遺されたという自覚。
 一方で理性がそろそろと、必要な訓練をほどこされているうちに、彼女の空想は次第次第に現実を基礎とした上に、また彼特有の王国を築いた。
 非常に鋭敏になった聴覚と視覚とが、かつては童話的興味の枯れることない源泉となっていた自然現象の全部のうちに、現実を基礎としたいろいろの神秘を見出し、自分自身を三人称で考える癖が増して来た。
「彼女は今、太い毛糸針のように光る槇《まき》の葉を見ながら、或ることを考えている……」
 槇の葉が美くしく光るのを見ながら、今考えている自分を、また考えている自分がある。
「こんなにたくさんの葉を皆間違いなく、その枝々につけ、こうやってただこぼれた麦粒から、こんなに生き生きとした、美しい立派な芽を出させるものは何だろう、彼女は、白いなよやかな根元から、短かく立つ陽炎《かげろう》を眺めながら考えている」
 考えの進歩につれて、彼女は自分の頭の中へ書いて行く。
 けれども、この第二の自分は、先のように
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