どの仕合わせ……。
 彼女は、まるで暗闇の中で路を見失ったように、がっかりし、希望がなくなっていた先頃の自分を想い出すと、我ながら可哀そうになって、つい涙をこぼしながらも、あらゆる歓びと希望がより一層よい形で蘇返《よみがえ》って来た今の嬉しさに泣く下から微笑を押えることが出来なかったのである。
 まったく、彼女は復活した。
 確かに順調ではなかった体の工合も、すっかりよくなって、毎晩恐ろしい夢に魘《うな》されることもなく、青かった顔にもいい色に血が潮《さ》して来た。
 そして、自分でもびっくりするほど力の増した彼女は、健康状態が非常にいいとき、誰でも感じる通り、あのピンピンとひとりでに手足が動くような活気に満ちながら、踊るように学校に行き、行ったときと同じ元気で帰って来る。
 疲れだの、倦怠だのというものは、このときの彼女の指一本に触れることも出来なかったのである。
 よく眠り、よく動きながら、彼女は一生懸命に勉強した。
 ついこの間までは、まるで解りそうもなかった、大変難かしそうだと思っていた本も、読もうとさえすれば、必ず或る程度までは理解される。
 まるで、彼女は脳髄がいいスポンジ
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