隊」その他の筆者として働いて来て、さてこれから、どのような方向にその成長の実質を高めて行くだろうかというようなことも、日本の文学の一方に注目をひくことである。火野葦平のそういう働きかた、動かされかたは、この二三年来の大局から見て彼一人に止らなかった。いろいろの形で彼を動かし又彼が動いたような動きの本質が、日本文学に入って来ていて、それはやはり現代文学の流れに或る色調を加えたものである。将来の文学の流れに流れ入る一つの要素となっているのである。
 火野葦平は、帰って来たときすぐ朝日新聞に「帰還兵の言葉」というものを発表した。そのなかに、あちらにいたときは物資が欠乏しているということを頻りにきかされていたところ、帰って見たら物資は店頭にあふれていて、これでこそ興亜の大業に進む国の姿であると愉快に思ったという意味が語られていた。私たち一般人の生活の日常では、炭や米の問題が旺《さかん》におこって来たこの二ヵ月ばかり前のことであった。そして、そういう火野葦平の文章ののっている朝日の同じ紙面のすぐ側に、米の配給に関する困難打開会議の記事も出ていた。「帰還兵の言葉」の筆者は、一つ紙面にそのように並び
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