各人の内心に燃えていた。それは、遠い昔、政治的思想的に紛糾を重ねた欧州の故国を去って、未開の新土に生活を創始しようと覚悟した程のものは、皆、何等かの意味に於て、強い箇人の自覚と、何物にも屈しない独立心を備えていたからなのです。
 アメリカと云っても、往古の状態は、決して今日我々の知識にある米国ではありませんでしたろう。今はもう人数も減り、圧迫されて仕舞ったアメリカン・インディアンが到る処に生活していました。畑と云う畑もなく、都市と云う都市もない。フランス、スペイン等の各国が、おのおの土地開拓に努力している。
 まるで、私共が、急にアフリカの真中にでも移住したように、絶えず生命の危険に脅かされ、自分の手一つの力で衣食住の要求を充たして行かなければならない場合、人は怯懦《きょうだ》でいられましょうか、他人により縋っていられましょうか。
 日本のように温和な自然に取囲まれ、海には魚介が満ち、山には木の実が熟し、地は蒔き刈りとるに適した場所に生きては、あの草茫々として一望限りもない大曠野の嵐や、果もない森林と、半年もの晴天に照りつけられる南方沙漠の生活とは、夢にも入るまいと思われます。恐ろしく
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