》市附近の知識階級に限られていると云ってよろしいのですから、フランスは勿論、他の国々のことに関しては、謹んで言葉を控えます。けれども、アメリカの風俗も彼等の為に弁護する為ではなく、我々が常識として或る社会の生活を余り偏した一面のみで知っていることは、如何にも反省すべきことと感ぜられます。米国なら米国の社会が現存し、我々と直接間接に交渉を持っていると云う事実は、決してリディキュラスな話で終ることではありません。「人によって見方も違う」と云われた一例として、私は自分の周囲に見聞きした事柄から綜合した観察を述べ、又、違った角度から見た事実を述べて見たいと思います。
 我々が、種々な社会状態、生活現象を観察する場合、先ず予備知識として頭に入れて置かなければならないのはその社会が、どんな個人によって形成されているかと云うことだと思います。
 総体として如何なる気質の人間の集合であるか、箇々の箇人は、その根柢に於て如何なる国民性の上に生存しているか。
 現象は、内に、原因を持たずに現れるものではありません。或る人が何か善行をする。或る男が破廉恥な罪悪を犯す。その善行なり、悪行なりの素因を万人は彼等
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