しませないように、互に蹉跌を生じないようにと配慮して行く。全く、朗らかな人間的な交渉で過されて行くのです。
 互いに倚《よ》りかかりっこで一体に纏まって行こうとするよりは、箇々が独立した存在で、互の間に放射される希望、信任、生気で、人生を暖かく溌溂たるものにして行こうと冀《こいねが》う。夫婦の間でも、同胞の間でも、皆そう云う傾向ではあるまいかと思います。或る箇人、例えば、父、良人、長兄などと云う一人の力に縋って、その人の庇護、その人の助力、その後援によって、一族円満に、金持もなければ貧しい者もない風で暮すのを理想とするよりは、もう一歩、人生に対して積極であると思います。先ず自己を、次に自己の現在の位置を安らかに肯定する丈の自信、よき自尊心を与えられる。一番の兄が富豪であるのに、自分が大学の僅かな月給に生活する助手であっても、自分に退《ひ》けめを感じさせない丈の自立心を持っていると思います。それ故、父が如何程金を積もうとも、娘や息子は、自分の力量相当の働によって生活して行くのを当然であると思う。又、日本の従来の如く、父の没後は長子が戸主となって、事業から交際まで主となって引継ぎをしなけれ
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