っても、徒に贅沢な着物を着せるではなく、ちやほやするではなく、たとい転んで泣いても自分で起きさせ、自分で壊した玩具なら、自分でなおすなり、工夫してそれを巧く使えるようにするなり、何でも自発力で生活させようとする意識は、如何程、彼等親達の心に深い根を下しているか分りません。
矢鱈に自由を拘束しない代りには、子供に悪感化を与える圏境からは出来るだけ遠ざかる。父が事務所に出勤し、一寸芝居でも見に出かけるには如何にも都合よい下町の家があったのだけれども、子供の為に、生理的、精神的に危険が多いから、自分達は着物一組ずつを儉約して、部屋代の高価な山の手の公園近くの閑静な場所に移る。玩具は、誕生日、名づけ日の祝とクリスマスなどによいものを買ってやる丈だけれども、夏には健康な田舎に避暑をして、単純に自然な田園の生活を経験させる。
教育方針に対しても、小学校から大学までを順序よく好成績で経なければ、社会人として価値低い者と云うようなペダンティックな考えではなく、所謂学問は、希望次第、能力次第で何処まででもよい。兎に角、一人の公民として立派に生活して行ける丈の実力がありさえすればよいと云う実際的方面か
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