事実として、深い意識、真面目な期待の下に生れ出た子供等を、彼等の母親達は、随分真剣に愛しています。よく、外国人の女は、我々ほど子供を大切がらない、と云うことを聞きます。けれども、彼女等が子供の為に考え、研究し、秩序を立てて計画しているのを見ると、決して一概にそうは云えない心持が致します。それは、勿論、日本の若い母親のように、暇さえあれば膝に赤児を抱いてもいなければ、歩くに背に負いもしません。日本では、一般に理窟なく、只、「子にほだされる」のを一種の美しい人情として余り過重視してはいませんでしょうか。
 子供が一人生れると、朝から晩までその為に費され、本を読む暇もないのを、忠実な母の多忙と認めすぎてはいませんでしょうか。
 その点では、彼地の母親は可なり考えかたが異っていると思います。彼女等は、先ず、出来る丈深い専門的知識から、子供に必要な、哺乳、散歩、沐浴、衣服交換等の時間表を拵えます。発育に従って種々な変動は起っても、兎に角大体子供の時間表に準じて、今度は自分の仕事を割り当てます。保姆を置くような家庭では、主婦の自由時間はいくらでもありましょうが、普通の下女なしの家や、一人位の助手を
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