よほどの仲よしか、親類ででもなければ、電話で用だけ足して会わないで帰っても何とも云えない風習ですから、家中空になっても私共が、日本で経験するような不便、不都合はありません。
 で、二人とも学校の時は、勿論昼食は外ですませます。学校の中に、学生や先生のために、便利で健康的な食堂が出来ていて、廉価に滋養のあるランチが得られます。食後、暫く構内の散歩をし、誘い合って帰宅する時間まで、三時間なり四時間なり又研究を続けると云う訳なのです。
 両人に仕事のある日、夕飯は、静に落付いて食べると云うのが主眼で、決して無暗《むやみ》に手のかかったものを幾品も作ることはありません。大抵、米国の中以上の家では、肉汁《スープ》、肉類野菜の一皿。サラダが主なもので、あとは菓子、果物と珈琲位の献立てです。瓦斯《ガス》が自由に使え、いつでも蛇口を廻せば熱湯が出る台処は、働くに着物を汚す場所でもなければ、心持の悪い処でもありません。一時間も準備にかかれば気持よい夕餐が出来ます。
 それを、談笑のうちにしまい、後の洗物や何かは良人も手伝って、七時半頃までには、外出するとも勉強するとも、眠るまでの時を、さっぱり空けて置く
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