ことが出来ます。
 R氏の家は、丁度市街に沿うてある細長いモーニングサイド公園に近いので、夕食後三十分か一時間も緩《ゆっ》くりと散歩し、胃も頭も爽かになった時分に帰って、読書と、昼間書いた草稿を夫人に読んで聞かせ、忠言を得て字句の改正をする。夫人は、同じ灯の下で、明日の下調べをしたり、手紙を書いたり、時には長閑《のどか》に編物などを弄《いじ》る。――
 けれども、一週間の他の三日、火、水、土の昼間は、R夫人も却々《なかなか》多忙で家事の多くを弁じなければなりません。
 先ず火曜日は、先週の日曜の朝代えた下着や、敷布や襯衣《シャツ》その他の洗濯日、午後からは訪問と云う日割です。大きいものは一まとめに袋に入れて、朝来ることに定めてある洗濯屋に渡し、小さい手巾《ハンケチ》とか、婦人用の襟飾、絹のブラウズと云うようなものは、皆、家で洗い、それが、乾くまで、必要な箇所を訪問します。四時頃には帰宅し、夕飯の準備をする迄、一時間半もかかってこれに電気鏝をかけ、さっぱりとなったものを仕舞うことが出来ます。夕飯後は、それで、緩くりと本を読むなり、一寸した針仕事をするなり定ってはいない様子です。
 翌日は
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