た。
大層すらりと均整の整った体躯、睫の長い、力ある大きな二つの眼、ゆっくりとつくろわず結ねられている髪や衣服のつけ方などが、先ず外形的に、一種の快さを与えた。
最初の一瞥で、何とも云えず感じの深い而も充分威に満ちた先生の為人《ひととなり》を感じた私は、歴史の試験で、年代などを忘れ変な答案を出すと、不思議に心苦しい思いをした。
先生が、試験の点どころか、恐らく学校の成績にさえ、拘泥して居られないことは解っていた。けれども人を観ることの鋭い先生に、出来ない生徒と極めつけられることは、恥しく堪え難いことなのであった。
五年生になってから、私共は教育心理学を教わることになった。そして、先生の人格的の影響は、愈々《いよいよ》大きく成った。
一週二時間の教育の時間を、私は如何那に待ち、楽しんだろう。私にとって学問らしい学問は、千葉先生の時間ほかなかった。僅か一時間の課業ではあったが、講義の一回毎に、頭が蓄る知識で重くなるようにさえ感じた。窮屈な文部省の綱目に支配された女学校の課程の中で、教育だけは先生の自由にまかされていたと見え、飢え饑《かつ》えていた若い知識慾が、始めて満される泉を見
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