弟子の心
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)為人《ひととなり》
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私が若し自叙伝のようなものをいつか書くとすれば、種々な意味で忘られない十七八歳の時代に連関して、書き落すことの出来ない人が幾人かある。その中の一人、主なる一人として、今度、印象を書いて呉れと此雑誌社から頼まれた、千葉安良先生がある。
先生の事について何か書くのは、実に私にとって感の深いことだ。いろいろ心に浮ぶことや、一人の弟子として感じた先生の性格等と云うものを、遠慮なく書くことによって、一層先生と云うものに近づき、密接になるように感じる。若し私が筆を控えることがあれば、其れは、未完成な自分が、先生の全部を知るに足りないものであると云う自覚によるばかりだ。私は先生に自分を些も隠そうとしないと同様に、自分は先生から遠慮なく何でも感じられる丈のものを感じ、吸収される丈のものを吸収した。先生は、生れつき非常に節度のある方だ。自分は感情的ではあるけれども、その人と面と向った時、親愛の言
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