らばった穀《わら》を足で押えてしごきながらひろって居る。
私の部屋の廂の下の畳には雨のしぶきが随分掛って居る。私はあれを敷いたらしめってさぞ毒な事だろうと思う。
しめった日や場所に居るとすぐ起る私の神経痛の事を思うとこまっかいしぶきを浴びて居る畳を見ただけで頭の後の方がズンズーンとする様な感じがする。
今まで塵《ちり》ぼっけだった職人の腹掛も雨に打たれて香《に》おやかな紺の色になって赤っぽい紅葉や山茶花の間を通る時に腹掛ばかりが美くしい。
しめった土を白い二本緒の草履がかけて通る。
顔は見ないに限る。
「ごみ」の中に見えなくなった針を二人がかりでさがして居る間に、
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「おい源《げん》……
源、居ないのかい。
一台あいたよ。
床だけ持って来な。
[#ここで字下げ終わり]
と土間から窓を透してさっきの声が叱[#「叱」に「(ママ)」の注記]鳴る。
急《いそ》いで取って返して来た二人は床を持って木の間に消えて行く。
あとにざあっと十本。
真黒な土にはっきりと快く黄いろい「わら」が落ちて居る。
目ざわりになると思ってか台を紅葉《もみじ》の下にころがし
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