通り雨
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)質《たち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)行って御|仕《し》よ、
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
−−
私の部屋の前にかなり質《たち》の好《い》い紅葉が一本ある。
気がつかないで居て今日見るとめっきり色附《いろづ》いて、品の好い褪紅色になって槇の隣りにとびぬけた美くしさで輝いて居る。
今畳屋が入って居るので家中、何となし新らしい畳特有の香りで一杯になって居る。
今日は子供部屋の畳を取りかえると云って中庭中に、台を持ち出してひどい風に吹かれながら縫いなおしの表《おもて》をさして居た。
朝からの風が雨になって大粒なのがポトーリポトーリと落ちて来た。
若い職人は主婦から注意されるまで意地の強い顔をして座って居る。
[#ここから1字下げ]
「玄関の土間へ行って御|仕《し》よ、
床《とこ》を濡されたら仕様がないから。
[#ここで字下げ終わり]
わきに居る書生に大きな台の片方だけ持ってやれと云ったりした。
一枚の畳が乗る
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