して受けた。家にいても堪え難い空虚を感じるらしく、千鶴子は、
「弟の帰るのが待ち遠しくて待ち遠しくて、この間もいきなり顔を見ると、――ちゃんと云ったきり泣いてしまいました。弟はまだ子供ですからね、困っていました」
と話した。
 彼女をはる子に紹介した×さんが、
「女は結婚して損はないんだがなあ」
と云ったということ。また、×氏が、
「いくつです」
と云うので、
「二十五です」
と答えた。
「へえ――。いつの間にそんなに年をとりました。――×××が妻君をなくし、子供は三人あるが――どうです、その人と結婚する気になりませんか」
と云ったと云うことなど、千鶴子は屈辱を感じてはる子に話した。各々の言葉がその人らしくはる子は面白いと思いつつ、千鶴子の癪《しゃく》にさわった気持も分った。
「そう簡単明瞭には行かないわね」
 然し、話すうちに、はる子には二三疑問が湧いた。
「あなた×氏には書いたものでもお見せになったの?」
「見ていただきました。――短いものでしたが褒《ほ》めて下さいました、そして、一二年みっしり努力すれば作家としてちゃんと立って行けると云って下さいました」
「それなら、どうして――
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