て、これまでと違った生活態度を知らせるという意味の言葉も云った。然し、千鶴子がしんで、はる子は処世上そんな関心が必要でない立場に生きているから単純にそう云うのだ。同時に、いいと思ったってそう出来ないのが自分の性質だ、悲劇だ、と自分を譲らず肯定していることも、はる子に分った。千鶴子と何か意見を交わすと、それ故無私な意見さえ時に何かで受けられるのを感じる。――この感じが、尠からずはる子の自由を妨げるのであった。
会えば屡々そうなのに、これはまた奇妙なことに、暫く彼女が顔を見せないと、はる子は気になった。寂しい古びた二階で、物質にも精神にも乏しい不健康そうな彼女が、どんな心持で暮しているだろう。はる子は圭子に云った。
「私、あのひとのことを考えると変に苦しいわ。離れて考えると全体が何だか可哀そうで心配しずにいられないのに、顔を見るとちぐはぐで――もう少し素直な方がいいのに、ね」
そのうち、国から母親が上京し、千鶴子は家を持った。はる子は心から、
「まあよかってね」
と云った。
「今まで、あなた淋しすぎたのよ」
六月の半ば過ぎ、はる子等は急に家を移った。郊外で、夏木立が爽やかに初夏の
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