空気を薫らせた。市内から来た彼女等には快い休息が感じられたので、はる子は千鶴子に泊りがけで遊びに来るように書いた。数日返事がなく、或る暑い午後、手紙が来た。
「私は後できっと後悔するにきまっているのです。でも、云わずにはいられません」
 また、
「自分は善にも強いが悪にも強い女です」
と激昂した前書で、はる子には思いがけない内容であった。圭子を憎悪して罵った手紙であった。はる子の圭子に対する友情を尊んで家へはもう来ない。最近自分には×、×などというよい友達が出来たから心配はいらぬと云う結びであった。猶々云い足りぬらしく、紙の端に追って書きに、圭子が学問のない、下らぬ女であるとのことを添え書きしてある。――
 千鶴子が、身震いする程亢奮し涙をためて書きなぐった心持が紙に滲んでいた。はる子は心を打たれ、やや暫くその紙面を見つめていた。
 それにしても一通り考えると、まるで見当違いなこの圭子に対する悪罵を、何故千鶴子は書かねばいられなかったのであろう? 圭子はぼやかしたところのない性格で、ずばずば口を利いたし、勝気でもあるから、気の開けない千鶴子の癪にさわることもあったであろうことは、はる子
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