「どういう点です、考えるっていうの」
と訊いた。
「――何と云っても一番初めは自分というものを或る程度まで隠して行かなければ駄目と思うのです。――一度出してさえ貰えば、それから本当の自分を出すことはいいでしょうけれども……」
 圭子が持ち前のずばっとした調子で、
「そりゃあ大分見当のつけ方が違っているようだな」
と云った。千鶴子は圭子にそう云われると自尊心を傷けられた表情をした。はる子はその露骨な顔を見たら、千鶴子がどこまで生活、人生を妙な角度で感じているか、情けなく憤おる気持を制せなくなって来た。
「そういうものではないと私も思う」
 はる子は、
「今日はすっかり思うことを云いますよ」
と断って、心の底を打ち破った。
「この点あなたが考えなおさないと、対人関係も仕事も正面《まとも》には行かないと思う。生意気のようだが、何か肝心のものが欠けている。そう云う外側からだけの考えでは――」
 三人とも熱し、千鶴子は帰る時眼に涙を浮べていた。
 はる子のいうことが全然誤っているとは、千鶴子も考えていなかった。
「貴女は、明るい朗らかな方だから」
云々。またそういうはる子の性質が、自分にとっ
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