に頭を上げていた稲だ。というのは全くだ。それ故はる子は千鶴子のいろんな癖もまあまあと思い、彼女が本気になることをよろこんだ。そのような心掛は、幸《さいわい》千鶴子にも伝わったと見え、彼女は互に知り合ったことを喜ぶ言葉を洩した。弟が夕方、多分学校へ出る途中であろう、
「姉さんがこれを……」
と云って、国の母の手づくりのかき餅、糟《ぬか》づけの瓜など届けて呉れることがあった。千鶴子が思いがけず半紙から練香を出して火鉢に入れたりした。
「国にいた時分私もよくこの香をねったものです」
 短い時間ずつではあるが会う度も重り、彼女の些やかな親切な心づかいによっても次第に友情は深まるのが自然であった。が、実際はそう行かなかった。はる子は、千鶴子と喋っていると、屡々《しばしば》心持の奥に原因ある居心地わるさを感じるようになった。何というか、次第に彼女の気の毒さとそぐわなさとを同時に感じる度が強くなったとでも云うのであろうか。
 この感情は或る日、千鶴子が自分の仕事について話した時極点に行った。三人で茶をのみつつ、
「どんな? うまく行くこと?」
「ええ、でもこんどは考え考えやっていますから」
 圭子が
前へ 次へ
全21ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング