ね、ね」と気休めを求めていたが、昨日は気分悪く、目が醒めたら発熱していた。K氏からの紹介で、長崎図書館長、永山時英氏を訪ねる予定なのであった。私は独り俥で出掛けた。
図書館は、諏訪公園の中に在る。グラント将軍が来朝した時建てた交親館を改造した小ぢんまりした建物だ。館長室に故渡辺与平の油絵と、同じ人の墨絵の竹の軸がかかっていた。永山氏は、長崎史研究者として知られている。その節、永山氏も云われたことだが、長崎は、日本文明史に重大な関係を有す特別な都市でありながら、未だ博物館を持っていない。種々の研究材料は、切支丹に関するもの、海外貿易に関するもの、その他、皆散在している。舶来された芸術品など、極めて立派なものが箇人の蔵にしまわれている由。それ故、長逗留をし、縁故を辿って気永く研究しようとする篤志家は兎も角、私のように貧しい予備知識と短い時間しか持ち合わせず、而も、過去の長崎が経験した文化史的活動の実証を一瞥したい者は、永山氏を訪問するらしい。その数は一年を通算すれば決して尠くないことも事実らしい。図書館は小規模の博物館を兼ねているのだ。豊富な資料を各箇人が持ち合わせながら、組織立った博物
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