長崎の印象
(この一篇をN氏、A氏におくる)
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)樟《くすのき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大|痘痕《あばた》になるところを

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]
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 不図眼がさめると、いつの間にか雨が降り出している。夜なか、全速力で闇を貫き駛っている汽車に目を開いて揺られている心持は、思い切ったような陰気なようなものだ。そこへ、寝台車の屋蓋をしとしと打って雨の音がする。凝っと聴いていると、私はしんみりした、いい心持に成った。雨につれて、気温も下り、四辺の空気も大分すがすがしく軽やかになったらしく感じる。――一人でその雨に聴き入っているのが惜しく、下に眠っているYにも教えたいと思った位。
 大体、私共は旅行に出てから十日余、天気の点では幸運であった。京都にいた間、また、九州に来てから別府、臼杵などにいた間、塵をしずめる打ち水となる程度の降雨に会
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