や、ずっと塀に沿った遠くの別な門をのぞいた。雨上りの日で、そこらあたりはサヨの靴が吸いとられそうに赭土《あかつち》が泥濘《ぬか》っているのである。
「何だかわからないわねえ」
 靴をよごして、落胆した様子で戻って来るサヨを、友子が手をあげておいでおいでをした。
「ちょっと、一般に見せるっていうのはここなんですってさ」
「ここ?」
「ええ」
 二人は腑に落ちない顔つきでうしろのテント張の場所を見やった。足元をよくするためにコークスのもえがらを敷いた空地に天幕張があって、そこには共進会のように新しいおはちだの俎板《まないた》、盥《たらい》、大|笊《ざる》、小笊、ちり紙、本棚、鏡台などという世帯道具がうずたかく陳列されているのであった。新しい木肌の匂いは天幕の外へあふれている。腕章をつけた男がいて、即売されていた。サヨたちと一緒にバスを降りた紋付羽織の女づれは、それらの品物のやすいのに興奮したような手つきで、何か喋りながらいかにも気やすそうに買物をどっさりよっている。
 すこしわきへのくようにしてサヨと友子は暫くそういう光景を見物していた。ふと気がつくと、その往来の向う側に下駄の歯入れやだの
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