」
サヨは友達の思いやりをよろこぶ表情で、
「私なんかには、ぜひみせてくれたっていいわけなんですもの」
だって、家族なんですものという心持をあらわして笑った。
ほんとにサヨはその内を一目みたい気がした。ああこんなところに暮して、こんな廊下も歩くのか。そうわかったら、どんなに重吉の一日も現実的に感じられて、こちらの気が楽になるだろう。
勤め先の事務所で名簿の整理をしながらも、サヨは子供っぽいような熱心さで時々それを空想した。そのくらいのつつましいうれしいことは、妻である自分の身にあってもよさそうに思えた。
当日になると、サヨは友子と池袋の駅で待ち合わせて、そこからバスにのった。そのバスも初めてであったし、ある学校の前で降りて呉服屋の角を曲る、その道も、まして原っぱは初めて見るから、サヨは物珍しさの抑えられない面持で歩いた。同じ方角へぞろぞろと人が行っていて、紋付の羽織姿の奥さん風の女も幾人かそこにまじっている。道端に自動車が二三台待っていた。紅白の布をまきつけたアーチが賑やかに立っている。サヨは、
「どこから入るんでしょう」
と、はずむ息をおさえるような顔をして、そのアーチの奥
前へ
次へ
全33ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング