朝の風
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)果《はて》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)大|笊《ざる》、
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)赤のまんま[#「赤のまんま」に傍点]の花も咲いている。
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そのあたりには、明治時代から赤煉瓦の高塀がとりまわされていて、独特な東京の町の一隅の空気をかたちづくっていた。
本郷というと、お七が火をつけた寺などもあるのだが全体の感じは明るい。それが巣鴨となると、つい隣りだのに、からりとした感じは何となく町に薄暗い隈の澱んだところのある気分にかわって、実際家並の灯かげも一層地べたに近いものとなった。兵営ともちがう赤煉瓦のそんな高塀は、折々見かける柿色木綿の筒袖股引の男たちの地下足袋と一緒に、ごたごたした縞や模様ものを着て暮している老若男女の生活に、一種の感じのある存在で、馴れながら馴れきれないその間の空気が、独特の雰囲気を醸してその町すじに漂っていた。
大震災の後は市中の様子が大分変った。この町のあたりも、新市内に編入されると同時に市区改正がはじ
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