ように二人を見くらべながら、
「ねえ、ちょっと。自動車大丈夫なの? 私いやよ」
と云った。
 病院へはサヨがついて行く約束になっているのであった。
 ほんとに夜なかの二時すぎたころ、サヨはひどく甲高な声で何か云っているゆき子の声と格子のあく音とではっと目がさめた。茶の間へおりて行ってみると、ゆき子は煌々とした灯の下で、もうさっぱりした浴衣にきかえて、立ちながら手くびにつけた時計を柱時計と合わせている。
「ああ、めをさまして下すって、よかった!」
 幾分ふだんと変った声で云って、腕時計の面を見守りながらねじをまいている。
 サヨはいそいで着物をきかえ、進一が運転台にのって来た自動車にゆき子をのせた。ゆき子はサヨの手を握っていて、痛みがよせて来るたびに握っている手に力をこめて息をつめるのであった。
「大丈夫? もつ?」
 そう云いながらサヨも我知らず人気ない街を疾走している自動車の中で草履の爪先に力をこめた。痛みの間がだんだん短くなって、サヨの心配が絶頂になった時、車はやっと病院に着いて、ゆき子はすぐ産室につれられた。
 二階の室で、閉めてあった窓をすっかり開け、サヨはそこにあった籐椅子を
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