とで、もとの家を去るようになった自分たちの生活の事情に積極の心もちもこめる思いで、サヨは元気よく転居した。
 こういうかたちの生活に、さっぱりとした感情をもって生きてゆくことも、女がそこまでおしすすめられて来ている愛情の姿なのだ。そう思ってサヨは暮した。
 引越した年の冬、或る寒い晩、寝いってほんの暫くしたとき、突然ドドーンと爆発したような音と同時に家じゅうが震えて、サヨは思わず床の上へ起きかえった。そして、スタンドをつけた。その灯をひとりで見守りながら体をかたくしていると、間をおきながら続けてドドーン、ドドーンと二度鳴って、その度にガラス戸がビリリビリリ震えた。見当は王子の方角である。もう爆発なことは明かであった。何処なのだろう。次の轟音を待ったがもうそれはやんで、今度は遠いすりばんが冬の夜らしく鳴り出した。そっちの空で犬の吠え声がおこった。
 急に寝間着一枚の肩にしみとおる寒気に心づくと一緒に、サヨには、自分のところをのぞいてあらゆる附近の屋根屋根の下で、この瞬間夫婦がぱっと床の上におきかえっていて、灯をつけていて、何なんでしょう! おびえたようによりあった気持で顔を見合わせている
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