た。その話をきいて、又別の年長の友達が私に一つの漢方薬を教えてくれた。それをのんでいて、いくらかずつおなかのいやな気色を忘れた。
 或る時、湯上りに爪を剪っていた。左の指をずっと剪って、右の方になったとき、思い出すともなく思い出して拇指の裏を見たら、魚のめのようなものは二つ、いつの間にかすっかり消えてしまっている。指紋が綺麗に流れていて、その間に小さい島のように一つだけ楕円形に光ったところが残っている。
 おや、こんなものが出来たと心付いて眺めた時より、おや消えていると思ったときの方が何だかびっくりした。薬を教えてくれた人にお礼がてら魚の目のことを話したら、
「それは、鳩麦のせいですよ」
とはっきり云われた。では盲腸のしこり[#「しこり」に傍点]も、魚の目のようにとかすのかしら、何だか気味が悪いと笑った。
 鳩麦というものだけ買って、戸棚に入れたまま何月か経った。買ったときの私のつもりでは、其れを田舎に暮している私の姑にあたる人に送るつもりだった。まだかっちりと若々しくて、黒い耀いた眼ざしをしているそのひとは、指にたこ[#「たこ」に傍点]のようなものがあって、ちゃんとした装などのときは
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