鼠と鳩麦
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)空《から》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)盲腸のしこり[#「しこり」に傍点]も、
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友達と火鉢に向いあって手をかざしていたら、その友達がふっと気づいたように、
「ああ、一寸、これ御覧なさい。こういうものがあなたの爪にあって?」
左の中指の爪のところをさすのを覗きこんで見ると、そこには薄赤い爪の中ごろに、すこし輪廓のぼやけた白い小花のような星が一つ出ているのであった。私はふーんと感心して、自分の十の指先を揃えて眺め直した。
「私にはないわ、そんなもの」
「そうでしょう? でも、私にはあるのよ。だから着物が出来るのよ」
そういう昔からの云いならわしがあるのだそうだ、私の指の爪に白い小さな星が出来ると着物がふえるという。
「だって――変ねえ……いつ本当に着物なんか出来るの?」
「きっとこの星の消えないうちなんでしょう」
は、は、は、は、とその友達は面白そうに笑った。毎日の暮しの事情はお互にわかっていて、その友達がきょうあす着物をこしらえることなど思いもよらないの
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