であった。私は、
「白い星の代りにこんなもの持っている」
と右手の拇指を見せた。
「あら!」
 友達は真顔になって、
「いつ出来たの?」
ときいた。
「いつだか。――何年かの間にいつの間にか出来ちゃった。変でしょう? 三つもこんな魚の目みたいなものが拇指にばっかり出来るなんて……」
「拇指に出来ると、親に死に別れるって云うのよ……当ってるのかしら」
 おのずと低い真面目なような声になって友達が其れを云ったのは、私が数年前に母を失い、それから足かけ三年目の一月末に、父を喪っていたからであった。二つの説明はそれでつくとして、あともう一つの分はどういうことになるのだろう。そう思って、友達が当ってるのかしら、と疑わしく云う気持が私にわかるのである。私は拇指の腹を眺めて、やがて其の上をこするようにしながら、
「もしそうなら、誰でも一生には四つ出るわけね」
と笑った。
「だってさ、自分の親たちと、つれ合いの人の親たちと……」
 そんなことを喋ったのは去年の冬のことであった。その後私は盲腸炎を患ったが、切開することが出来なかったからいつ迄も工合わるくて、下駄が右の腹に響いて歩いてもいやな気分がつづい
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