た時、私は帰ってから始めて祖母に会った。子供のように、赤いつやつやした両頬で、楽しそうにはしていたが、二三ヵ月前に比べると、ぐっと老耄したように見えた。弱々しいあどけなさめいたものが、体の運び方に現れた。私は、思わず、
「おばあちゃん、いかがでした、安積は」
と云った。御祖母様という言葉に暗示される威厳、構えというようなものが、自然とれていたものと見える。そのとき祖母は、賑やかに揃っている連中を見渡しながら、巾着を何処へやったか判らなくなって困る困るとこぼした。
 数日後の或る朝のことであった。電話が掛って来た。私は友達の家にいた。電話口に出て見ると、母の声で、祖母が四五日前から腸をこわし、昨夕から看護婦をつけている。見舞いに来るように、ということだった。――電話を切りながら、安心のような不安心なような不確な心持になった。母自身もどの程度まで大事に考えてよいのか見当のつかない口ぶりであった。私は、途中で平常祖母の好きな謡曲のレコードを買って行った。
 祖母は、几帳面なたちであったから、隠居所はいつもきちんと片づき、八畳の部屋も広々としていた。祖母は、そこに寝ているのだが、派手な夜具の色
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