も心配だし、御不動様へつぶも上げなきゃあなるめえし」
憐れな祖母は、これぞという用事もなしに、田舎へ往復してはいけないと感じているらしかった。彼女の癖がのみこめないうち、よくこの陰気っぽい話の切り出しかたで、皆が滅入った。父や母は特に感情上複雑な理由でも潜んでいるのではないかと案じたらしい。しかし、祖母は、そういう朗らかでない生れつきであったのだ。損な人であった。多くの場合逆に感情を表した。私を愛していてくれたのに、顔を見ると、「お前は子供のうちはめんごかったのになあ」と云った。また、すきな物を召上れと云われ、実に嬉しいに違いないのに、「おらあ子持の時分から、腹の減るということを知らなかった女だごんだ」と云うように。後では、時節がよく成ると、皆の方から、田舎に行って世話をやいて来て下さいと云った。去年も五月に、私が頼んで一緒に行って貰った。夏は東京に帰って過し、秋、私と入れ違いに再び田舎に行ったのであった。
十一月二十日すぎに、英国から従弟の一人が帰朝した。祖母とは特別深い繋りがあった人なので、寒くもなるしそれをよい知らせに迎いが立った。従弟の歓迎の意味で近親の者が集って晩餐を食べ
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