ない代り、知っていることを隠す術を知りません。尋ねて見たら、徴の通りを云いました。大地の神が百年の眠りからさめて身じろぎをしようとしているのです。
ミーダ 本当か?
使者二 嘘は注進になりません。
ヴィンダー 間違いじゃあ無かろうな。
使者一 私の眼や耳は、まだ役に立つ積りです。
ヴィンダー よい。行け! 褒美は仕事がすんでからだ。――(ミーダに向い)どうだな?
ミーダ ふむ。――騒ぐほどのことではないが万更でもない。久しぶりに俺の鞭も命を感じて鎌首を擡げるようだ。どれ、どれ。(にじり出した、宮の端から下界を瞰下《みおろ》す)一寸下を覗かせろ。愚鈍な人間共が、何も知らずに泰平がっている有様を、もう一息の寿命だ。見納めに見てやろう。
ヴィンダー 俺の大三叉も、そろりそろりと鳴り始めたぞ。この掌に伝わる頼もしい震動はどうだ。(下を瞰下し)ふむ。感じの鋭い空気奴、もう南風神に告げたと見える、雲が乱れる。熱気が立ち昇る。
ミーダ(下を覗きつつ、段々亢奮し奇怪な様子で手に握った鞭を振り始める)ほうれ!(間)よしよし。この動物の血で塗りかためた、貴様等同族の髪毛の鞭が一ふり毎に億の呪いをふり出すか
前へ 次へ
全20ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング