る)何と云う沈滞しきった有様だ。又この間のように面白いことでも起って呉れないかな。目が醒めるぜ。
ミーダ 人間のアーリアン族を大喧嘩させたことか?
ヴィンダー うむ。思っても溜飲が下る。目覚ましかったじゃあないか。俺達の仕事で彼処まで大仕掛けに成功したのは一寸ないね。そりゃあ、人間が今でも云い伝えているそうだが、あの若者のカインに、始めてアベルを殺させたのも手柄の一つには違いないが、規模の壮大さで比較にならぬ。
ミーダ 然し手間はかかったな。俺の一心を凝らした点から云えば、カインの仕事をやり遂げて以来、ずっと、あの大騒動の下拵えにかかり切っていたようなものだ。奴等の小屋が幸地続きだったから、幾分都合はよかったものの、蒔いた呪咀の種と、狂暴の酵母の多さ! 俺もよく破産しなかったものだ。
ヴィンダー 滅多なことには驚かない俺も、あの時許りは目を瞠った。人間共に未来を見せず、奴等の悦ぶ思弁にこじつけてさも世界を救う大思想のように思わせ思わせ野心と所有の慾望を徐《そ》ろ徐《そ》ろ植える手際には、俺も参った。生れては死に、死んでは生れる人間共が、太古の森も見えない程建て連ねて行く城や寺院、繁華な
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