。彼方此方、随分とび廻って、さし迫った智慧や忍耐や互の助力をかしてやったが、破壊神や呪咀の神は、一向私の存在を見抜なかった。呪いの神が、破壊神を単純と嗤《わら》ったが――(晴れやかな微笑)云った者が必ず叡智に長けているとも思いません。私の白髪とこの透明な白衣とが、何の為だか一向知ろうともしません。私のこの髪と衣はどんな色でも光りでもそのまま映して同じ色に輝きます。火に入れば熱い焔色、燻《くすぶ》りむせる煙に巻かれれば見わけのつかない煤色になって、恐れて逃る人間達を導き導き空気とともに勇気を与え、必要な次の営みにつかせます。際立った音と目立つ象を持たないからこの神々の容赦ない視線も逃れ、場合によると、活気を添える味方とさえ思われる。それに、破壊神呪咀の神は、自分の正面に来るものしか見えないのが特性です。三方は明いている。そこが私の領分です。どんな破滅が激しかろうと、虐げようが厳しかろうと、男女一組の真直な人間がその三方の何処かに逃る隙さえあれば、きっと私の手が待ち受けてい、つつましく根気よく次代の栄をもり立てるのです。
  ――おや、微な気勢《けはい》が近づいて来る。私になじみのあるもの
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