らしい――。
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イオイナの使者、一片の花弁のように軽く、女神の傍に降る。
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使者 およろこび下さい。女神様。そろそろ貴女のお力の効験《しるし》が現れて来ました。災厄が余り突然やって来たので、人間の微妙な精神の歯車も大分痛められました。あれほど感情の鋭い者達が、本当に涙もこぼさず、獣のように狂い喚いていた有様は思い出しても恐ろしいが。――(一粒のキラキラ金剛石のように輝く露を示す。)御覧下さいこれは、始めて人間がしん[#「しん」に傍点]からこぼした嬉し涙の一雫です。互に求め合い、思い合っていた血縁、愛人達、誼《よしみ》の深い友達共が、はっと息災な眼を見合わせた刹那、思わずおとした一滴です。
イオイナ まあ美しいこと。曇もない。かえしておやり、返しておやり。これは勤勉の根に注ぐ比類のない滋液です。
使者 それから、申すも楽しいのは、今朝一人の幼児が、母の懐に抱かれながら太陽を仰見て、からからと笑いました。傍にいた男女や年寄も、同じ方を見上げてほほえみました。
イオイナ おお、嬉しいことの二つ。――私
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