みこんでいたと見える。ところが今日の美味さ! 本当の別製だ。どうか自分の同胞たちを救けたいとか、親や妻子、良人ばかりは生かせたいとか、奇妙な願いに充ちているので、さながら甘露の味いがする。
ヴィンダー こせついていた都会も、これで少しはからりと焼原になったな。脆いものだ。俺が愉快なのは、建物がひしゃげて灰になったばかりではない。人間共が、得意な意気込みで、これ見よがしに築き上げた文明の精神まで、一緒に焼き払ってくれたことだ。
ミーダ 体も心も赤裸か、楽園を追われたアダムとイブと云いたいが、俺と云う憑きものがあるだけ、あの当時より複雑だ。
カラ ああ私も、久しぶりで堪能した。ちょいちょい小出しに楽しもうと蓄めさせた涙の壺、霊の櫃だけでも彼那になった。
ヴィンダー そろそろ俺達は引とるかな。細々した残りの仕事は、自身手を下す迄もない。
カラ すっかり満足して上気《のぼ》せた私の顔のように赤い、澱んだ太陽が、それでも義務は守って、三遍火の上をかき抜けました。
ミーダ ――引き上げよう。――が。その前に一つすることがある。利己、貪慾、無節制の一袋を、此処ら辺からばら撒くのだ。
ヴィンダー 俺は
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