ただ名もない雑木が秋に会ってその葉を風情もない様な茶色にかえてガサガサして居る時、紅葉にくらべる美くしさはどこにもない様に思える。
しかしにぶい日光がその葉の上にただよった時葉の縁には細い細いしかしながらまばゆいばかりの金線が出来てつつましく輝きながら打ち笑む様を見た時に、――――
やがて見て居るうちにはわけのわからない涙がにみじ出して心の中には只嬉しさと謙譲と希望に満ちてその美の中に自らが呼吸して居る様な気持になる。
私は誰はばかる事なく世の中の人すべてに云う事が出来る。
人の血を見る事を恐れず明暮れを只争闘と罪悪に暮して悔ゆる所のない哀れな不具な心を持ったものどもでも、一度若しこの美くしさをしみじみと感じたならば、悔いと安心の涙にむせびながら尊い美を感謝するに違いない――――と。
私は神をないものとは思わないながらもそれを信じて毎日毎日祈る事は出来ない、けれ共この美にささげる私の祈りは私が死ぬるその時までつづく長いものである。
熱心な信者が聖母の御像を拝するだけで自らの行手に輝く光明を見出すと同じに、私はこの美によってすべての事を感じ思わされるのである。
私はこの美
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