る力を持って居ると云う事を私は信じ私に対してはまったくそうなのである。
こけおどしの利く勿体ぶった美のかげには常に何となくギスギスした、又人間で云って見れば「カブト町」に住んで居る四十近くの男の様に投機めいた様子のあるものを抱えて居る。
しかし私の思う美くしさばかりは、どこの面をのぞいてもそう云う不快さは持って居ない。
すなおに――しとやかに――さりながらやたら無精《むしょう》にかきまわす事の出来ない厳かさを持って居る。
私達から進んで行ってその美に一致する事は出来ても、美の方から我々の心に入って来ない見識を持って居るのも勿体ぶった美くしさの向うから進んで私達に近づいて来るのとはまるで違って尊いものである。
この美の我々の手になったものにあまりなくて大抵の時は自然の中に住んで居ると云うのもそうあるべき事で、又人間の手で造り出す事の出来ないものである事を私は望んで居る。
一握りの土の中のただ黒いものの中にも、自らが進んで行きさえすれば想像もつかないで居た美が発見されるものである。
色彩の工合いもなく、連想がどうあろうともどっちとも云われない感情がその美くしさから湧き上る。
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